プレスリリース

オリゴ糖と乳酸菌を用いることで ウナギの腸内環境改善を世界で初めて実現

 ~ウナギ養殖の生産性向上に期待~

藤田医科大学(愛知県豊明市)消化器内科学講座、医科プレ・プロバイオティクス学講座は、ウェルネオシュガー株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:山本貢司)や静岡県水産・海洋技術研究所 浜名湖分場などと連携し、オリゴ糖と乳酸菌を併用することでウナギの生産効率が20%向上する研究成果を得ました。さらに、感染予防を示唆する効果も得られ、ウナギ養殖を効率化する手法として期待されています。
本研究成果は、国際誌「Fisheries Science」の2023年12月7日(オンライン版)に公開されました。

本研究では、ウェルネオシュガー株式会社の持つ3糖オリゴ糖であるケストースと、藤田医科大学が岡山大学のベンチャーである株式会社農(みのり)と開発した乳酸菌FM8™︎を使用しました(特許出願中)。

研究成果のポイント

  • オリゴ糖と乳酸菌を併用して投与することでウナギの腸内環境が改善されることを確認
  • それにより、飼料効率が改善され、感染症リスクが減少する(すなわち、養殖の生産性が向上する)可能性が、世界で初めて示されました

背景

養殖のうなぎは一定の割合で感染症にかかってしまい死亡することがわかっています。特に有名なのは、エドワジエラという感染症の病原菌で、エドワジエラが増えると腸をはじめとする消化器官で炎症が発生し、多くの場合死に至ります。感染症罹患うなぎの被害推定総額は10億円以上にものぼるといわれていることから、生産コストの節減対応策として、感染症に罹患するうなぎの被害を最小限に食い止めることが課題とされています。また、近年では稚魚の漁獲量減少による稚魚価格、輸送コスト、エサ代の高騰が重なり、流通するうなぎの価格は年々上昇しており、効率的な養鰻技術の開発が求められています。
この研究はウナギの腸内環境を整えることで、ウナギの健康維持、そして養殖の生産性を向上させることを実証することを目的にしています。

研究方法及び結果

二ホンウナギに対して、オリゴ糖のケストースと、発酵食品から分離された乳酸菌FM8を含むシンバイオティクスを1か月間投与しました。その結果、飼料効率が20%以上向上しました。これは、ケストースと乳酸菌FM8が腸内の有用物質である酢酸の濃度を顕著に増加させたことが一因と考えられます。
このウナギの腸内細菌を調べると、ケストースと乳酸菌FM8を摂取したウナギの腸内では、シンバイオティクス群の有益な菌であるRomboutsia属が顕著に多く、感染症原因菌であるエドワジエラ属は顕著に少なくなっていました。
本研究により、ケストースと乳酸菌FM8の投与がウナギの腸内でのエドワジエラの顕著な減少と酢酸濃度の増加をもたらし、これがウナギの病気の発生率を減少させ、養殖の生産性を向上させる可能性があることが示唆されました。

今後の展開

ウナギは日本人にとって非常に人気がありますが、希少で高価な食材になっています。現在、ウナギの完全養殖の実現化はされておらず、シラスウナギ(ウナギの稚魚)を捕獲し、それを養殖で育てて食材にしています。この貴重なシラスウナギを最大限に活用することは、現在のSDGs(持続可能な開発目標)に沿った取り組みと考えます。今後、実際の養殖環境で、この研究で使用したケストースと乳酸菌FM8をウナギに与え、ウナギの生産性を向上させる社会実装を進める予定です。

文献情報

論文タイトル

Synbiotic administration in Japanese eels with prebiotic 1‐kestose and probiotic Lactiplantibacillus plantarum FM8 improved feed efficiency and significantly reduced the levels of Edwardsiella

日本語タイトル

プレバイオティクス1-kestoseとプロバイオティクスLactiplantibacillus plantarum FM8によるニホンウナギへのシンバイオティクス経口投与は、飼料効率を改善しEdwardsiellaレベルを有意に低下させた。

著者

藤井匡1,2*, 吉川昌之3, 近藤修啓1,4,5, 山川早紀1,4,5, 舩坂好平1, 廣岡芳樹1, 栃尾巧1,2

所属

1 藤田医科大学 医学部 消化器内科
2 藤田医科大学 医学部 消化器内科学 医科プレ・プロバイオティクス講座
3 静岡県水産・海洋技術研究所 浜名湖分場
4 伊藤忠製糖(株)研究開発室
5 ウェルネオシュガー(株)

掲載誌

Fisheries Science (2023)90:115

掲載日

2023年9月22日(オンライン版)

DOI

10.1007/s12562-023-01739-w