プレスリリース

真皮幹細胞が分泌するエクソソームの変化が 肌のコラーゲン産生に関わることを発見

 藤田医科大学医学部(愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1番地98)応用細胞再生医学講座(教授:赤松 浩彦)及び皮膚科学講座(教授:杉浦 一充)は、日本メナード化粧品株式会社(愛知県名古屋市中区丸の内3-18-15、代表取締役社長:野々川 純一)との共同研究によって真皮幹細胞が分泌するカプセル状の物質「エクソソーム」に含まれる特定の成分が、皮膚のコラーゲン産生に関係していることを発見しました。また、この成分が加齢によって減少することで、皮膚のコラーゲン産生が低下することも明らかにしました。
本研究の成果は2022年7月1日に発行されたBiological and Pharmaceutical Bulletinに掲載されました。




身体の細胞は様々な方法で情報交換を行い、生命活動を維持しています。エクソソームは細胞が分泌するカプセル状の物質で、その中にタンパク質やmiRNA※1などを内包し、他の細胞に輸送することができます。エクソソームを受け取った細胞は、内包された物質の影響で、活動を活発化させたり低下させたりするため、エクソソームは細胞間の情報伝達手段の一つとして、近年注目されています。
真皮幹細胞は、皮膚のコラーゲンを作り出す線維芽細胞の起源となる細胞ですが、研究の結果、線維芽細胞のコラーゲン産生を高めるタンパク質(ANP32B)を含んだエクソソームを分泌していることが明らかになりました。さらに、加齢によって真皮幹細胞のANP32Bの発現が低下することも発見しました。ANP32Bの発現が低下すると、真皮幹細胞から分泌されるエクソソームに含まれるANP32Bが減少し、線維芽細胞が受け取るANP32Bも減少します。その結果、線維芽細胞のコラーゲン産生が低下すると考えられます。
皮膚のエクソソームに関する研究はまだまだ始まったばかりで不明な点が多くあります。今後も、真皮幹細胞が分泌するエクソソームに着目し、エクソソームの機能低下が起きる原因を追究して、老化に対する新たなアプローチとして創生してまいります。
※1 miRNA:21~25塩基長の一本鎖RNA分子。遺伝子の発現調節に関与する。

<参考資料>

1.エクソソームについて

身体の細胞は様々な方法で細胞同士の情報交換を行い、生命活動を維持しています。そのメカニズムとして近年注目されているものが「エクソソーム」です。 エクソソームは細胞から分泌される直径50~150nm程度の小胞(カプセル状の構造)で、細胞内に含まれるタンパク質やmiRNAなどをエクソソームに内包して、他の細胞に輸送することができるため、細胞間の情報伝達手段の一つと考えられています。分泌されたエクソソームを取り込んだ細胞では、内包されていたタンパク質やmiRNAによって遺伝子発現など細胞の機能に変化が起こることが知られています。エクソソームは、分泌する細胞によって内包物が変化するため、その作用は多様です。特に骨髄や臍帯由来の幹細胞が分泌するエクソソームには、組織の修復効果が多く報告されており、再生医療分野への応用が期待されています。このように、骨髄等の幹細胞が分泌するエクソソームの機能は解明されつつありますが、皮膚の幹細胞については、分泌するエクソソームに関する報告は少なく、その機能は不明な点が多くあります。

エクソソームの働き

2.真皮幹細胞が分泌するエクソソームは、線維芽細胞のコラーゲン産生を促進する

真皮幹細胞が分泌したエクソソームを添加して線維芽細胞を培養し、コラーゲン産生への影響を検討しました。その結果、線維芽細胞はエクソソームを取り込み、真皮の主要成分であるⅠ型コラーゲンの産生が高まることが分かりました。

真皮幹細胞由来エクソソームによる線維芽細胞のコラーゲン産生への影響

3.コラーゲン産生を促進するタンパク質ANP32Bの特定に成功

真皮幹細胞が分泌するエクソソームが線維芽細胞のコラーゲン産生を促進するメカニズムを明らかにするため、真皮幹細胞由来エクソソームのプロテオーム解析※2を行いました。その結果、真皮幹細胞由来エクソソームに特徴的な74種類のタンパク質を同定しました。この74種類のタンパク質について検討を進め、コラーゲン合成シグナルの一つに関連があるAcidic Nuclear Phosphoprotein 32 Family Member B(ANP32B)と呼ばれるタンパク質に着目しました。
そして、ANP32Bの発現を低下させた真皮幹細胞を作成し、その細胞が分泌したANP32Bが含まれていないエクソソームを線維芽細胞に取り込ませました。その結果、ANP32Bが含まれないエクソソームを取り込んだ線維芽細胞は、ANP32Bが含まれたエクソソームを取り込んだ線維芽細胞に比べ、コラーゲン産生が低いことが分かりました。つまり、真皮幹細胞は、エクソソームによってANP32Bを受け渡すことで、線維芽細胞のコラーゲン産生を促進していることが明らかになりました。
※2 プロテオーム解析:生体内のタンパク質を網羅的に解析する手法。今回の検討では、エクソソームに含まれるタンパク質に特化して解析。



ANP32Bによる真皮幹細胞由来エクソソームの機能への影響

4.真皮幹細胞におけるANP32Bの発現は加齢に伴い低下する

これまでの研究から、真皮幹細胞は加齢に伴ってその数が減少することが分かっており、真皮幹細胞由来エクソソームの量も加齢に伴って減少してしまうと考えられます。今回の検討では、加齢に伴い真皮幹細胞におけるANP32Bの発現がどのように変化するのか解析しました。その結果、20代の皮膚の真皮幹細胞に比べて、60代の皮膚の真皮幹細胞においてANP32Bの発現が低くなっていました。このことから、真皮幹細胞由来エクソソームに含まれるANP32Bの量も加齢によって減少し、真皮幹細胞由来エクソソームの機能が低下してしまうと考えられました。そのため、真皮のコラーゲン産生を維持し若々しい肌を保つためには、真皮幹細胞の数を維持するだけではなく、ANP32Bの発現低下を防ぎ、真皮幹細胞由来エクソソームの機能を維持することも重要です。

真皮幹細胞におけるANP32Bの発現の加齢変化

文献情報

雑誌名

Biological and Pharmaceutical Bulletin

論文タイトル

Enhanced type Ⅰ collagen synthesis in fibroblast by dermal stem/progenitor cell-derived exosomes

著者

眞田 歩美3、山田 貴亮1-3、長谷川 靖司2-4、石井 佳江1,3、長谷部 祐一3,4、岩田 洋平2、有馬 豪2、杉浦 一充2、赤松 浩彦1

所属

1 藤田医科大学 医学部 応用細胞再生医学講座
2 藤田医科大学 医学部 皮膚科学講座
3 日本メナード化粧品株式会社 総合研究所
4 名古屋大学大学院 医学系研究科 名古屋大学メナード協同研究講座

DOI

10.1248/bpb.b21-01084