OGOB INTERVIEW

藤田医科大学 卒業生インタビュー仕事で大切にしていること、
なんですか?

診療放射線技師

INTERVIEWvol.003

僕たちが持っている知識を伝えることで安心してほしい。 目指すのは「不安のない治療」。

桂田 昌輝Masaki Katsurada

名古屋陽子線治療センター 陽子線治療技術科

放射線学科 / 2015年卒業

取材日

DESCRIPTION

放射線は目に見えないし、においもしない。それなのに、使い方ひとつで「治療」にも「被曝」にも繋がる。だからこそ、取り扱うことのできる人は限られている。専門知識を備え、正しく使える人。桂田さんはそんな診療放射線技師として働き始め、四年目を迎えた。 取材を始めようとしたら、桂田さんがレジュメを机の上に出した。見ると、A4用紙にびっしりと、先に渡しておいた質問に対する答えが書かれている。 「うまく話せるかどうかわからないので、念のため準備してきました」 そう言って笑う桂田さんを見て、慎重で丁寧な方なのだなと思った。そして、おそらく仕事にもこのような姿勢で取り組んでいるのだろうと。限られた時間内で良い結果が出せるように、常に努力している。そんな誠実さが伝わってくるような始まり方だった。

「誰かのためになる」仕事なら、ずっと続けられると思った

ーまずは、診療放射線技師のお仕事について教えてください。

診療放射線技師の仕事には、放射線を使った「診断」と「治療」のふたつがあります。
「診断」は、エックス線撮影、CT検査、MRI検査などですね。肉眼では見えないところを放射線を使って撮影する仕事です。医師がその画像を見て、病気を診断します。
「治療」は、その放射線の量を増やして病巣に当てて治していく、という仕事です。一般的な診療放射線技師のキャリアとしては、「診断」を数年経験してから「治療」に配属されることが多いのですが、僕の場合はここに入ってすぐに「治療」に配属されました。それから四年間「治療」の仕事をしています。

ー「診断」の場合には、こういう病気だと判断するのは医師ですか?

はい。判断するのは医師なんですが、診療放射線技師もただ撮るんじゃなくて、医師のオーダーを聞いて「こういう画像にしたほうがいいんじゃないか」と工夫したり、相談するらしいです。同僚からはそんなふうに聞いたことがありますね。

ー桂田さんが「治療」を担当しているのは、どんな病気の患者さんなのでしょか。

ガンの患者さんがメインです。頭頸部、肝臓、膵臓、前立腺、骨盤の中のリンパのガンなど、あらゆるガン患者の方を担当しています。

ー放射線治療というのは、どのように行うものなんですか?

患者さんにベッドに寝ていただき、「ガントリー」という筒状の機械に入っていただきます。そして機械を回しながら、患者さんの腫瘍に当てたい方向から放射線を当てていくんです。
ひとりの患者さんへの放射線照射の数は決まっていて、その回数だけ治療に来ていただきます。多くの方は外来ですが、入院している患者さんもいらっしゃいますね。

ーこのお仕事を、桂田さんが目指すようになったきっかけは何でしょう?

僕の高校時代は、就職氷河期と呼ばれている時だったんですよ。それもあって、将来はちゃんと手に職をつけたいなと思っていたんです。
では仕事として長く続けられるものは何かと考えた時に、「自分の好きなこと」を仕事に選ぶと、途中で辛くなった時に「好きなこと」を嫌いになって辞めてしまいそうだなって思ったんですね。だけど「誰かのためになる」仕事なら、辛いことがあっても続けられるんじゃないかなと。それで、医療関係の仕事に就きたいなと思い始めました。

ーなるほど。自分のやっていることが「誰かのためになる」と考えたら、どんな時も頑張れそうですもんね。

それで具体的に職種を考えて、理学療法士、臨床検査技師、臨床工学技士、診療放射線技師の四択に絞りました。理学療法士は体力のいる仕事なので難しいかなと。検査技師は倍率が高いと言われていたし、臨床工学技士は手術室に入らないといけないので、血が苦手な僕にはちょっとなって思って……。
だけど診療放射線技師は、昔骨折をしてエックス線検査を受けたことがあったり、MRI検査を受けたこともあったので、何となく仕事内容がイメージできたんですよね。それに、放射線という見えないものを使っていておもしろそうだなと。それで、診療放射線技師になろう!って決めたんです。

ーいろんな職種を比べてみて、自分に合ったものを探していったという。

そうなんです。「これになりたい」っていうのではなく、「何ができるか」で考えていきました。その結果として、診療放射線技師が残ったという感じですね。

放射線のプロとして、正しく怖がらないといけない

ー藤田を目指したのはなぜだったんですか?

やはり最先端の病院が併設されているというのが大きかったですね。そこに入るだけで学べることや得るものは大きいだろうなと思っていました。実際、入学してびっくりしたんですけど、ほぼ全部必修科目だったんですよ。

ーえっ! つまりどの科目も落とせないという?

そうなんです、ひとつでも落とすと学年が上がれないんですよ。それで「もうこれは全部やるしかないな」って腹をくくって。おかげで、診療放射線技師に必要なあらゆることをあそこで学ぶことができたと思います。

ーそれは大変だったでしょうね。

確かに1年では数学とか物理とかの基礎科目ばかりで苦しいなと思うこともあったのですが、2年からは実際に放射線についての勉強が始まってきたので、わかるとすごくおもしろかったですね。
僕はそれまで点数をとるための勉強しかしてこなかったのですが、この時初めて「わかるっておもしろい!」っていう感覚を知りました。放射線ってこういうもので、こういうことができるんだっていうことが知れるのは、すごく楽しかったです。

ー今の仕事のイメージがつかめてきた感じですか。

そうです、そうです。
あと、放射線学科は生徒が60人ほどしかいないので、全員と知り合いになれたのも良かったですね。わからないところがあるとみんなで話し合ったり、助け合ったりしていました。そうしているうちに仲良くなっていって、社会人になった今でも仕事の情報交換なんかをしています。

ーそこで学んだことで、特に今に活きていることは何でしょう?

印象に残っているのは、放射線被曝についての授業ですね。決められた量以上の放射線を当ててはいけないとか、扉を閉めなくてはいけないとか、放射線を用いるにはいろんなルールがあるんですが、そこで先生に言われたのは、「正しく怖がらなくてはいけないよ」ということだったんです。
目に見えないものだからといってむやみに怖がってはいけない。プロは根拠を持って正しく怖がらないといけないと言われて、「ああ、この授業をとってよかったな」と思いました。

ーなるほど。放射線というものを取り扱う上で、とても大事な考え方ですね。

一番嬉しいのは、不安そうな患者さんが笑顔になる瞬間

ー今のお仕事で、やりがいを感じる瞬間はどんな時ですか?

みなさん、最初はこんな大きな機械の前に案内されて、「私はどうなってしまうんだろう」と不安になられるんですよ。だけど、僕たちが持っている知識を伝えることで安心していただけると、笑顔を見ることができたりして、その時は「ああ、良かったな」って思いますね。そして、その方がだんだん慣れてきて、最後には「治療できて良かった」と帰っていかれると、本当に嬉しい気持ちになります。

ー先ほどの「正しく怖がる」という言葉にも繋がりますね。

はい。やはりみなさん不安が強いので、治療に対してなるべくきちんと理解していただけるように、わかりやすい説明を心がけています。「不安がない治療」というのが、僕の大事にしていることですね。

ー逆に、大変なことは何でしょう?

やはり一度に当てる放射線の量が診断の比ではないので、「間違えてはいけない」というプレッシャーと責任は毎日とても感じていますね。
医師の指示を受けながら、放射線をどのように当てていくかをきちんと計算してプランを立てたり、正しく当てられるように位置合わせを徹底したり。どの時も、とにかく間違えないように気をつけています。
だけど、気をつけすぎると正確性にだけ目がいってしまって、動けなくなる時があるんですよ。そういう時にはすぐに先輩や先生に相談するようにしています。ひとりで悩んでいたら解決しないことも、人に意見をもらうことで前に進むことがたくさんあるので。

ー勉強も仕事も、ひとりで頑張りすぎるのではなく、誰かと協力するという視点は大事ですね。では、最後に受験生へのアドバイスをお願いします。

何事も諦めないことが大事だよ、ということでしょうか。
治療の仕事をしながら研究も行っているんですが、研究ってすぐに結果が出るものじゃないんですよね。ずっと「ああでもない、こうでもない」と言いながら続けている。でもその内、「あ!」という発見がある瞬間が来るんです。ずっと使っていた放射線機器の原理がわかったり、業務のルールの意味がわかったりすると、仕事がずっとおもしろくなります。
いつか「諦めないでよかった」と思う時が来るはずですから、それまで続けてみてください。

私の相棒

放射線測定機器

これは、放射線の量を測定する機械です。治療装置が出す放射線の量が日によって変わっていないかどうか、計画のときに決めた量がちゃんと出ているかどうかなどを、いつもこれで調べています。朝には装置の点検時に、夕方には計画で立てたプレ照射時に、ちゃんと決められた通りに出ているのかを測定します。
見えない放射線を、見える数値で算出できる重要なアイテム。何よりも正確性が求められる仕事なので、これがないと治療ができないですね。「正しく怖がる」ための大事な相棒です。

取材後、放射線治療室まで案内していただいた。目の前に現れたのは、圧倒されるほど大きな機械。いつもこれを操縦して治療に従事しているのだそうだ。私たちにもわかりやすいよう機械の説明をしてもらったのだが、現場に来た桂田さんが、これまでよりずっと生き生きと話し始めたのが印象的だった。
撮影の時に、先輩の診療放射線技師の方が来て手伝ってくださった。「桂田くんをかっこよく撮ってもらわないとね!」と言う先輩に、桂田さんが恥ずかしそうに笑う。その様子を見て、悩んだ時にはすぐに先輩や先生に相談するという話を思い出した。常に緊張感が求められる仕事だからこそ、それを分かち合える仲間が必要なのかもしれない。
最先端を行く機械も技術も、人が作っていて人が使っている。だからこそ、桂田さんはそれを理解しようと努力し続け、管理を徹底する。そして、仲間と協力する。
「諦めない」という彼の思いは、医療には決して欠かせないものなのだ。